ル・コルビュジエとは — 近代建築の三大巨匠と「5つの原則」、サヴォア邸
白い箱のような家を、細い柱が地面から持ち上げている。屋上には庭があり、横長の窓が壁を端から端まで横切る——いまでは見慣れたこの形を、ひとつの「原則」として打ち出した人がいる。ル・コルビュジエ。フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと並んで、近代建築の三大巨匠に数えられる建築家だ。
はじめに
20世紀の前半、建築は大きく作り変えられた。鉄とコンクリートという新しい材料が、それまでの石やレンガの常識を解いていく。その変化のただ中で、住宅から都市計画まで、人の暮らす場所そのものを設計し直そうとしたのがル・コルビュジエだった。まずは、彼がどんな人物だったのかを押さえておきたい。
- 本名|シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリ
- 生まれ|1887年・スイス、ラ・ショー=ド=フォン
- 活動の拠点|パリ(フランス)
- 没|1965年・南フランス
- 位置づけ|近代建築の三大巨匠の一人
生い立ちと人間性
ル・コルビュジエは、1887年にスイスのラ・ショー=ド=フォンで生まれた。父は時計の文字盤を彫る職人、母はピアノ教師という家庭で、幼い頃から芸術と工芸に囲まれて育った。若い頃は絵画や彫刻に親しみ、その関心がやがて建築へと広がっていく。なお「ル・コルビュジエ」は本名ではなく、1920年から使い始めたペンネームで、祖先の名に由来する。
パリでの修行
1908年、ル・コルビュジエはパリに移り住み、建築家オーギュスト・ペレの事務所で働いた。ペレは鉄筋コンクリートのパイオニアであり、その影響を受けたル・コルビュジエは、新しい建築材料と技術の可能性に魅了されていく。さらに1910年にはドイツ・ベルリンの建築家ペーター・ベーレンスの事務所でも経験を積み、そこで後のモダニズム建築を担うミース・ファン・デル・ローエやヴァルター・グロピウスと出会った。
時代背景
20世紀初頭、世界は急速な変化の時代に突入していた。産業革命によって都市化が進み、新しい技術と材料が建築にも大きな影響を及ぼす。この時期、建築界では伝統的なスタイルから脱却し、新しいアプローチを模索する動きが強まっていた。アール・ヌーヴォーやアール・デコといったスタイルが登場し、モダニズムが台頭し始めたのもこの頃である。
ル・コルビュジエは、この変革の時代にあって、自らの建築理念を確立していった。シンプルさ、機能性、そして革新性を重んじる彼の考え方は、のちに「モダニズム建築」の礎となる。
建築理念と手掛けた作品
近代建築の5つの原則
ル・コルビュジエの建築理念は、1927年に「近代建築の5つの原則(5つのポイント)」としてまとめられた。これらは彼の建築物に共通する特徴であり、モダニズム建築の基本原則とも言える。
① ピロティ:建物を地面から持ち上げることで、土地の有効利用と自然との調和を図る。

② 屋上庭園:屋根を緑化し、自然と一体化させる。

③ 自由な平面:柱で建物を支えることで、内部空間を自由に設計できる。

④ 水平連続窓:横に長い窓を設けることで、自然光を最大限に取り入れる。

⑤ 自由な立面:柱で支える構造により、外壁のデザインを自由に行える。

これらの原則を基に、ル・コルビュジエは数々の革新的な建築物を生み出していった。
代表的な建築物
サヴォア邸(Villa Savoye)
サヴォア邸は、フランス・パリ郊外のポワシーに建つ、ル・コルビュジエの代表作の一つだ。この邸宅には「5つの原則」がすべて反映されており、モダニズム建築の象徴とされている。ピロティで持ち上げられた白い箱のような建物は、シンプルでありながら機能的で、美しい。広い窓からは自然光が降り注ぎ、内部は開放感に満ちている。

ユニテ・ダビタシオン(マルセイユ)
マルセイユに建つユニテ・ダビタシオンは、ル・コルビュジエの都市住宅の理想を形にした建物だ。1952年に完成したこの巨大な集合住宅は、住居だけでなく商業施設や公共施設も備え、住民の生活を一つの建物のなかで完結させるという斬新な構想を持っていた。コンクリートの荒々しい質感とカラフルな装飾が特徴的で、現代の集合住宅の先駆けとなった。

ロンシャンの礼拝堂
1955年に完成したロンシャンの礼拝堂は、ル・コルビュジエの宗教建築の傑作である。直線的なそれまでの作品とは一線を画し、有機的で曲線的なデザインが特徴だ。自然と一体化したような形状や、内部に差し込む光の演出は、訪れる人に強い印象を残す。直線の人というイメージのある彼が、こうした柔らかな造形にも挑んでいたことは、その懐の深さを物語っている。

影響と遺産
ル・コルビュジエの影響は、建築界にとどまらない。彼の理念やデザインは、都市計画やインテリアデザイン、さらには美術や文学にも及び、世界中の建築家やデザイナーにインスピレーションを与え続けている。
都市計画への影響
ル・コルビュジエは都市計画にも大きな関心を持ち、「輝く都市(La Ville Radieuse)」という理想的な都市モデルを提案した。高層ビルと広大な緑地を組み合わせ、住民が快適に暮らせる環境を実現しようとしたこの構想は、現代の都市デザインにも多大な影響を与えている。

インテリアデザインへの影響
ル・コルビュジエは家具のデザインにも精力的に取り組んだ。彼が手掛けた家具は、シンプルでありながら機能的で、美しいフォルムを持っている。建物の外観から室内の椅子一脚まで、一貫した思想で設計しようとした姿勢がうかがえる。

おわりに
ル・コルビュジエが残したのは、個々の建物だけではない。ピロティ、屋上庭園、水平連続窓——彼が「原則」として言葉にした要素は、いまも世界中の住宅やビルのなかに、当たり前の風景として溶け込んでいる。
2016年には、サヴォア邸やロンシャンの礼拝堂を含む7か国17の作品が、「ル・コルビュジエの建築作品群——近代建築運動への顕著な貢献」としてユネスコ世界遺産に登録された。そのなかには、東京・上野の国立西洋美術館も含まれている。彼の考えた形は、思っているより、すぐ近くにある。
