G-0C41NE8DJB 『自分の中に毒を持て』─無条件に生きることは、叫びである|亀吉の呟き
亀吉の書評

『自分の中に毒を持て』─無条件に生きることは、叫びである

yoshiomi

岡本太郎という名前を、誰もが一度は聞いたことがあるだあろう。

「芸術は爆発だ!」という言葉は、もはやフレーズとして独り歩きし、派手で過激な人物像だけが記号的に切り取られているようにも思える。けれど、その背後にある“生き方そのもの”に触れることは、そう多くない。

『自分の中に毒を持て』は、そんな岡本太郎の“声”がまっすぐに届いてくる一冊だ。
読めば読むほど、心のどこかが焼けるように熱くなる。
この本を、私の中でバイブルになっている1冊と言ってもいい。
読むたびに、背筋が伸びる。なにか、試されているような気にさせてくれる本だ。

この本で岡本太郎は、一貫して私たちにこう命じる。

「無条件で生きろ」と。

それは、あまりに単純で、あまりに難しい命令だ。

「自分を殺してまで人に好かれる必要なんてない」
「器用になるな。ヘタでいいからまっすぐやれ」
「常識に合わせるな。危険な道を選べ」

そういう言葉たちが、この本にはごろごろ転がっている。
どれもこれも、今の時代に発せられるとすれば、あまりにも“極端”に聞こえるかもしれない。

だが岡本太郎の言葉は、耳で読むものではない。
(彼の作品は目でみるものでないのと同じように)

彼の言葉は身体で読むものだ。思考を通過する前に、直感や感情のどこかに突き刺さる。
その衝撃のような読書体験こそが、この本の真のエッセンスのように感じる。

「無条件で生きる」とは、何かを条件にして自分を動かさない、ということだ。
成功したら行動する、褒められたら続ける、人に評価されたら価値がある──

そういう“条件付きの自己肯定”を、根っこから否定するのが、岡本太郎の生き方である。
私たちは気づかぬうちに、「条件が揃ったら生きる」ことに慣れてしまっている。

努力が報われるなら頑張る。誰かが見てくれているならやる。
でも、岡本太郎は言う。「そんなのは、死んでいるのと同じだ」と。

生きるとは、結果に関係なく、評価もなく、意味もなく、
それでも“やる”ということだ。
ただ、「爆発するように生きろ」と。

もうひとつ、印象的なのが「危険な道を選べ」というメッセージだ。
(私はこの言葉が大好きである)

安全な道、損のない選択、波風を立てない生き方。
それらは、現代社会において“賢さ”の証のように語られる。

けれど岡本太郎は、それを真っ向から否定している。

「安全な生き方を選んだ時、人間は老い始める」
そう語る彼の言葉には、甘さが一切ない。
誰かの期待に応えるために、無難にやりすごすことは、たしかに“上手な生き方”かもしれない。でも、それは“自分の生き方”ではないのだ。

危険な道とは、誰も保証してくれない道だ。
うまくいくかわからない。やっても無駄かもしれない。バカにされるかもしれない。

でも、それでも自分が「やる」と決めたことなら、そこに飛び込む。
その“狂気”のような勇気こそが、生きるという行為の真ん中にある、と太郎は教えてくれる。

傷つくのが怖くて、波風を避けてきた自分。
人に嫌われたくなくて、本音を濁してきた自分。そんな自分が、本の中で何度も試される。

そして、私はこう考えている。

「自分の中に毒を持て」とは、誰かの期待に寄りかかるな、自分自身の真実を生きろ、という叫びなのではないか、と。

その毒は、社会にとっては異物かもしれない。
でも、それがなければ、自分という存在はどこにも立たない。
だからこそ、自分の中の“異物”を抱きしめろ。そう言っている気がする。

岡本太郎の言葉は、時に暴力的ですらある。優しさの余白をほとんど持たない。
でも、それは彼が「本気で生きてきた証」でもある。
彼は、優しくしてくれる代わりに、徹底的に突き放してくる。

それでもその言葉の向こうにあるのは、
「おまえはおまえとして生きていい」という、誰より深い肯定なのだと思う。
彼はこう言う。
「芸術とは、生き方そのものである」と。

それは、絵や彫刻の話ではない。「生きるということが、最大の表現なのだ」と言っているのだ。

この本は、ただ一つの“叫び”として、こちらをまっすぐに撃ってくる。

生きろ。無条件で。
危険な道を選べ。
毒を持て。
それが、おまえという存在の唯一の証明だと。

この本を読んだあと、世界が変わるわけではない。
だが、自分の内側にある「何か」は、確かに変わっていることだろう。

誰にも気づかれないような、ほんのかすかな決意が、胸の奥に宿っている。

岡本太郎という人は、そのすべてを賭けて、「生きろ」と言い切った人だったのだろう。

それも、無条件で。

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