G-0C41NE8DJB 「チーズはどこへ消えた?」――変化に立ちすくむ、あなたのための寓話|亀吉の呟き
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「チーズはどこへ消えた?」――変化に立ちすくむ、あなたのための寓話

yoshiomi

「チーズがなくなっている」

そんな、たったひと言から物語は始まる。

スペンサー・ジョンソンの『チーズはどこへ消えた?』は、変化と向き合う人間の心理を、驚くほどシンプルな寓話で描いた一冊だ。わずか100ページに満たないその中には、私たちが日々抱える「恐れ」と「執着」、そして「希望」のすべてが凝縮されている。

この物語には4つの登場人物が出てくる。2匹のネズミ、スニッフとスカリー。そして2人の小人、ヘムとホー。彼らは迷路の中でチーズを探す。そして、ある日見つけたチーズの山「チーズ・ステーションC」で、しばらくの間、幸福な日々を過ごす。しかしある日、そのチーズが突然消えてしまう。

ここからが、真の物語の始まりである。
変化が起きたとき、私たちはどう反応するだろう?

ネズミのスニッフとスカリーは、何も深く考えることなくすぐに行動する。彼らは「もうここにチーズはない」と直感で理解し、新しい迷路へと走り出す。

一方、小人たちは動けない。「まさか、誰かが持っていったのか?」「いつか戻ってくるのでは?」と混乱し、不安になり、怒り、そして恐れに支配される。ヘムは変化を受け入れられず、頑なにそこに留まろうとする。(読者側の意見としては動けば良いのに、、と思うかもしれないが、現実世界に置き換えた時ほとんどの人間がヘムと同じ行動をとる気がする)
ホーも最初はその横でうずくまっているが、やがて「このままではダメだ」と気づき、一歩ずつ迷路を進む決断をする。

この4人(2匹)のキャラクターは、私たち自身の中にある「反応のパターン」を映し出している。論理的な頭でも、柔軟な感性でもなく、“反射的に”動けること。それが時に変化のなかではもっとも大切になることもある。

ホーの行動は、読者にとって特に示唆的である。

彼は不安を感じながらも、壁に言葉を残して進んでいく。「恐れを手放せば、自由になれる」「小さな変化を早く察知すれば、大きな変化に対処できる」「自分のチーズのにおいを時々かいでみよう」

この“壁の言葉”は、すべて人生へのレッスンと捉えることができる。変化は避けられない。むしろ、それは常に私たちのすぐそばにある。にもかかわらず、私たちはしばしば「なぜ変わってしまったのか」と嘆き、過去の快適さにしがみつこうとする。だが、そのしがみつきこそが、自分自身を縛る「恐れ」の正体なのかもしれない。

『チーズはどこへ消えた?』が優れているのは、物語の形をしていながら、読者自身が自然と内省してしまう構造にあると考えている。チーズは何か?と考えたとき、それは「仕事」かもしれないし、「人間関係」かもしれない。あるいは「健康」や「プライド」かもしれない。

その“何か”がなくなったとき、私たちはどうするか。

この寓話が突きつけるのは、「あなたのチーズは、すでに動いているのでは?」という問いだ。

変化の恐怖について、私たちは何度も味わってきた。たとえば職場での急な異動、家族構成の変化、愛する人との別れ、新しい環境に身を置くこと…。そのたびに、「元に戻らないか」「昔の方が良かった」と感じてしまう。中には「変わること」それ自体をを先延ばしにしてしまうことだってあるかもしれない。

しかしながら、この本は我々にこのように伝えてくる。「チーズは戻ってこないかもしれない。そして、それでいいのだ」と。

むしろ、チーズが動いたということは、自分もまた動くチャンスを与えられたということなのだ。ホーが迷路を進み、やがて新しいチーズを見つけたように、変化は私たちに新たな扉を用意してくれている。

本書を読み返していると、特に印象に残ることの一つにヘムが最後まで動かないという点がある。

すべての人が変化に適応できるわけではない。変化は怖いし、時に過酷だ。だが、「変わらない」という選択は、結果としてより大きな苦しみをもたらすことがある。ホーはヘムを何度も誘う。けれどヘムは動かない。それは悲しいが、(先ほども書いたように)それは、現実でもしばしば見られる姿なのだ。

この寓話が優れていることの一つに、誰かを強く責めたり、単純に「前向きになれ」と説教したりしないという点がある。どの反応も、それぞれの“恐れ”から生まれていることを静かに見せてくれる。そして、少しでも前進したことに対して肯定的な意見をくれる。

物語の最後、ホーは「いつかヘムも来るかもしれない」と思いながら、静かに新しいチーズを味わう。そして、もう一度“変化が来たとき”に備えて、靴ひもをしめ直す。

変化とは、何度でもやってくるものだ。

そして、そのたびに私たちは「恐れと希望の間」で揺れながら、自分自身の足で進むしかない。

『チーズはどこへ消えた?』は、そんな日々に寄り添いながら、「あなたは今、どこにいる?」と問いかけてくる。

「あなたは今、どこにいるのだろうか?」

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こんにちは。亀吉です。 仕事の合間にブログを書いています。 このブログは、どこまでも個人的で恣意的な思想の表明です。思うままに・・・ 映画と本が好きです。その他音楽や登山など。
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